2011年1月24日月曜日

めがね - 荻上直子(2007)


 「泣ける○○」という言い方がもてはやされるようになったのは、いつごろからのことでしょうか。"It makes you cry."ではなく、"You can cry with it."。成果主義的というか、欲望中心主義というか、おかしな例えになってしまいますが「抜ける○○」みたいに、作品鑑賞とは別な次元で本や映画をとらえているようで、私はこの言い方が好きではありません。
 泣いたり笑ったり叫んだり、疾走したり爆発したり、そういう騒々しさから離れて、この映画の中ではただただ平坦に時間が過ぎていきます。この映画で「泣ける」人はいないでしょう。退屈、ですらあるかもしれません。
 でも、その「何も起こらない」感が気持ちいいのです。あの不思議な“メルシー体操”にも惹かれます。
 仕事や人間関係がつらくなると、「南の島に行きたい」って言い(思い)ませんか。そんなときの気分にぴったりな映画です。

2011年1月21日金曜日

ニュー・シネマ・パラダイス(Nuovo Cinema Paradiso) - Giuseppe Tornatore(1989)


 私が小学生の頃までは調布にも映画館がありました。今もパルコキネマがあるじゃないかと言われるかもしれませんが、ビルの中に組み込まれた映画「室」ではなく独立した映画「館」があったのです。
 旧甲州街道の布田駅近く、「調布映画劇場」という名前で、ガメラやゴジラの怪獣映画をよく見に行きました。
 甲州街道沿いの入口の両脇には、ガラスケースになった掲示板があって映画のポスターやスチル写真が飾ってありました。映画館はそこから少し奥まったところに建っていて、入口で写真を見てから切符を買ってはいるまでのそのアプローチを、映画への期待に胸ふくらませながら歩いていくのです。
 楽しみなのは怪獣映画だけではありません。真っ暗な映画館の中は、それだけでもわくわくする空間です。その片隅で、予告編や併演される映画を見て、まだ知らない大人の世界への興味を募らせていたのでした。
 私より前の世代の人たちにとって、「映画」あるいは「映画館」は特別な意味を持つようです。誰もがその思い出を思い入れたっぷりに語ります。この映画(の劇場公開版)は、そんな映画懐古世代のハートをわしづかみにします。後ろばかり見ていてはいけないと思いつつも、縁側でひなたぼっこをしながら渋茶を飲んでいる老夫婦のように、思い出の世界に浸って涙していまいます。
 ある映画を見に行った帰り、弟が映画館に帽子を忘れた事に気がつきました。映画館に戻れば、見たかったTV番組(たぶん、キャプテンスカーレット(サンダーバードのあと番組))に間に合いません。「あぁ残念だなぁ」と思ったあの時が、私と映画の、あるいは映画時代とTV時代の別れ目だっただろうかと、今、ほろ苦く思い出します。