2012年7月13日金曜日

ダブル・ミッション (The Spy Next Door) - Brian Levant (2010)

 ジャッキー・チェン演ずる敏腕CIAエージェントが、隣に住む女性との普通の生活を夢見てスパイからの引退を決意します。ところが、彼女の子供三人は結婚に反対、あの手この手で二人の仲を妨害します。
 スパイとしての最後の仕事と、恋人の留守宅を守って子供達の信頼を得ること。外見はさえない東洋人のジャッキーが二つの任務(ダブル・ミッション)に挑みます。
 これをたとえばトム・クルーズとかピアース・ブロスナンがやるとしたら、一線を退いて落ちぶれている男が、恋人の愛と子供達の信頼を勝ち取るために奮起して最後のミッションに挑む、という話になりそうですが、現役の設定のまま話を作れるのがジャッキーらしいところ。もうすぐ60歳に手が届こうかという彼のアクションは、往年の勢いはないもののまだまだ健在で、「かつては超一流だったスパイが惜しまれてい引退する」感じを良く出しています。
 凄いのに笑っちゃういつもの演技は子供相手でも違和感なく、…いえ、子供相手だからこそさらにコミカルさを増して生き生きとして見えます。
 これなら、ミッション・コンプリート間違いなしでしょう。

2012年7月12日木曜日

Foul Play - Colin Higgins (1978)

 "Foul Play"を辞書で引くと、「反則・ずる」と並んで「暗殺・殺人」という意味が出てきます。ローマ法王の「暗殺」をテーマにしたロマンチックコメディですが、背の小さい人やメラニン色素の少ない人、変態男や日本人のお上りさんなど、「反則」すれすれの登場人物や演出についても匂わせているタイトルです。
 死体なき殺人の謎はどうなっているのか、法王暗殺の陰謀をいかにして防ぐか、そういうストーリー関係はあまり意味をもちません。繰り返されるショートギャグの連発に笑い転げる映画です。ヒッチコック映画のパロディもちりばめられています。古い映画ですから、ギャグもヒッチコックも今の人にはわかりにくいかもしれませんけど、難しいことを考えないで楽しみましょう。何も知らなくても普通に面白いですよ。いや、普通以上に面白いこと請け合いです。
 いろいろなことにうるさくなった今、この手の映画を作るのは難しいかもしれませんね。下品な笑いにしない演出の手際が素敵です。
 主役のゴールディ・ホーン(Goldie Hawn)のキュートな魅力もさることながら、これがハリウッドデビューとなったダドリー・ムーア(Dudley Moore)の強烈なキャラクターは30年以上経った今でも忘れられません。アカデミー賞にノミネートされた主題曲を歌うバリー・マニロウの顔が彼にそっくりで、当時ヒット曲を連発していた彼を見るたびにダドリー・ムーアの顔を思い出して吹きだしてしまい、とても困りました。

2012年7月8日日曜日

許されざる者(Unforgiven) - Clint Eastwood (1992)

 NHKの大河ドラマ「平清盛」について、兵庫県知事が「画面が汚い」と苦言を呈したことがニュースになったことがありました。確かに、十二単の美女や緋縅の兜姿も凛々しい男前の武士が塵一つない舞台で演じてきたかつての大河ドラマに比べれば、ぼろをまとった汚い登場人物やほこりっぽくてみすぼらしい景色など、これまでとはかなりギャップのある内容であることは確かです。けれども、決してきれい事ばかりではない、荒ぶる武士(もののふ)の創生期の空気感を表すには良い演出ではないかと、わたしは思っています。
 しょせんは人殺しのドラマ、時には親子兄弟でさえも殺し合うような血なまぐさい話です。平清盛もなんとか組の組長もたいして変わんないでしょ。そこに何を期待しているのさ、そんなことをふと思ったりもするのです。
 日本の侍に対するのが西部劇のガンマンです。アウトローとカタカナにするとかっこいいですが、無法者、つまりやくざじゃないですか。もろ手を挙げて賞賛するような対象じゃないだろ。西部劇育ちのイーストウッドが、この映画ではそんな問いを投げかけています。
 引退したガンマンが、正義のために立ち上がって悪者を倒しに行きます。いや、正義のためではなく賞金のためでした。その賞金も私憤のためにかけられたものです。相手がトイレに入っているところを襲うという卑怯な方法で賞金を手に入れます。撃つ方も撃たれる方も無様で救いようがありません。保安官も暴力的で嫌なやつです。誰が善で誰が悪なのか白黒つけられない、登場人物のすべてが「許されざるもの」なのです。
 いえ、それだけではなく、これまでの美学に満ちた西部劇を作ってきた映画人、それを支持してきたわれわれ観客をも「許されざるもの」なのだと言っているのではないか。 そんなことを考えさせられます。
 見終わった後、「イーストウッドはいつ見てもかっこいいね」などと、間違っても言ってはいけません(たぶん言わないと思うけど)。そんな映画です。

2012年7月5日木曜日

おまえうまそうだな - 藤森雅也(2010)

 草食恐竜マイアサウラに育てられた肉食恐竜ティラノサウルスが、草食恐竜アンキロサウルスの親になるという、宮西達也原作の絵本の映画化作品です。ティラノサウルスの名前はハート、アンキロサウルスのなまえはウマソウ。卵が孵った瞬間にハートが「おまえうまそうだな」と言ったことが刷り込みとなって、アンキロサウルスの子供はハートを親、「うまそう」を名前だと認識してしまったのです。
 子供だましのファンタジーのような内容だと馬鹿にしていると、とんでもないしっぺ返しを受けることになります。
 手塚治虫の「ジャングル大帝」の主人公、ライオンのレオは森の王としてインパラなどの草食動物にも愛され、もちろん彼らを食べたりはしませんでした。ところが、ハートは草食恐竜を襲いその肉を食べる 「正しい」ティラノサウルスとして描かれます。さすがにウマソウの前ではその姿を見せるわけにはいかないので、ウマソウが眠っている夜を待ってのことですが。
 肉食、草食の一面だけで単純に白黒・善悪を区別することなく、どんな動物にも共通する親子の愛情と仲間を思う気持ちが素直に表現されていて胸を打たれます。
 ハートにかかわるウマソウ、マイアサウラのお母さん、そして実の親ではないかと思われるティラノサウルス。三者三様(ハートも含めて四者六様かな) の物語にほろりとさせられてしまいます。
 強い恐竜が好きな男の子と優しい動物が好きな女の子と、お父さん、お母さん、是非みんなで観て、感想を話しあってみてください。